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持続可能なモビリティの実現を目的として、都市交通計画に関する計画手法を対象に、幅広い研究を行っています。それらの内容は多岐にわたりますが、
1)都市圏交通計画の交通戦略の構築手法
2)交通管理計画のための交通行動分析の開発と適用
3)交通需要予測モデルの開発と適用
4)交通まちづくりの新しい計画手法の開発と適用
に大別されます。それぞれの概略を述べると以下のとおりです。

1) 都市圏交通計画の交通戦略の構築

都市圏交通計画は、土地利用と交通のバランスを目指すマルチモーダルな長期交通計画として、1967年の広島都市圏交通計画調査以降、わが国に普及し、東京都市圏の四回を筆頭に、多くの都市圏で繰り返し実施され、わが国の都市交通計画の計画手法の改善と具体的な都市交通問題の緩和に大きく貢献してきました。しかし、政策目標が多様化し、財源や合意形成の制約条件が顕在化した今日において、効果的で実現可能な都市圏交通戦略を構築するために、多くの課題が指摘されています。
青森、仙台、宇都宮、東京、静岡中部等の都市圏交通計画調査に委員として参画した経験を活かし、都市圏交通計画調査に関する土木学会共同研究、日本交通政策研究会自主研究、科学研究費基盤研究、AGSモビリティ研究に、積極的に関与しています。このテーマに関する主な研究成果は以下のとおりです。

① 都市圏交通計画の成果と課題
土木計画学交通調査技術検討委員会の「PT調査の成果と課題」部会長として、パーソントリップ調査に基づく都市圏交通調査の成果と課題を明らかにし、研究課題の展望を整理した(原田(2002)・交通工学)。提案した計画立案プロセスは、第四回東京都市圏交通調査で実現に至るなど、実務にも大きな影響を与えています。その後の継続的な検討成果を、交通工学ハンドブックの「都市交通」や日本交通政策研究会の記念講演(社会的貢献、2003年度参照)に整理している。

② 交通戦略モデルの開発と適用(東京都市圏)
不確実性を考慮した交通戦略の構築において、背景シナリオと政策シナリオの組み合わせに対応した多様な代替案を比較検討する手法として、交通戦略モデルを開発し、具体的に東京都市圏に適用しました。科研とAGSモビリティ研究の中間成果を取りまとめた論文(研究業績No.78)は、土木学会の地球環境講演論文賞を受賞しています。また、交通戦略モデルは、THP(Tokyo Half Project)や脱地球温暖化プロジェクトの都市圏モデルの一部にも適用しています。

③ 都市圏交通計画制度の比較研究(米、英、仏、日)
わが国の都市圏交通計画の実現性を大きく制約している計画制度の現状に関して、米国における1990年代以降の環境を考慮した都市圏交通計画の制度変更、英国におけるLocal Transport Planの計画制度変更、ならびに仏におけるPDU(都市圏交通計画)立案と実施に関わる計画制度に関して、実態把握と課題整理を進めています。また、科研の基盤研究においては、広域計画の合意形成と計画制度の関係を明らかにしています。

2) 交通管理計画に関する計画手法

持続可能なモビリティの実現のためには、長期・広域の都市圏交通計画における交通戦略の構築と実現に加えて、短期・狭域の交通管理計画の活用が重要であり、効果的で実現可能な交通管理計画を構築するためには、個人や企業の交通行動を、より詳細な時空間レベルで分析し、その制約条件と選択要因を把握することが不可欠です。
個人や企業の交通行動は時空間制約等により決定する利用可能な選択活動の中から合理的に選択されるという基礎理論に基づき、実際の都市における交通手段選択、目的地選択、居住地選択等の行動結果を説明する手法を開発し、その結果を、都心活性化や交通環境改善を目指す交通管理計画の構築に活用しています。
具体的には、わが国の交通行動分析の先駆者として、日本都市計画学会論文奨励賞(1983年)、土木学会論文奨励賞(1985年)を受賞したのち、新しい調査技術の開発、目的地や頻度の分析手法の開発、時間や情報の行動価値計測など、継続的に、交通行動分析手法の改善に努めています。
また、1990年代後半より、わが国への交通需要管理手法の導入に積極的に関与し、その立案から実施に至るプロセスとその適用課題を整理し、基本概念と計画手法の解説(「渋滞緩和の知恵袋」、交通工学講習会)、交通需要管理施策へのマーケティング手法の適用(「成功するパークアンドライド」)、「効果的な交通需要管理施策の立案・実施手法」(日交研報告書)、ETC料金割引や動的パークインドライドの社会実験の推進など、効果的な交通需要管理の実現に、大きな役割を果たしています。
最近は、生活の質の改善に資する交通サービスの構築を念頭に、IT技術による活動軌跡調査を組み込んだ都心部滞在活動診断システムの構築、活動交通分析の時空間アクセシビリティ概念を用いた社会的排除問題診断システムの開発、交通GISと応答型調査を組み合わせた交通ゲームの開発を進めています。

3) 交通需要予測モデルの開発と適用

少子高齢化、情報化、逆都市化等の社会的な構造変化に対応し、幹線道路や鉄道の社会資本整備の基礎となる交通需要予測モデルの改善を進めています。特に、高速道路の需要推計に関しては、道路交通センサスの実施に伴う需要予測モデルの改訂作業を繰り返し進め、その論理性と推計精度の改善に貢献してきました。また、過大な交通需要予測がなぜ引き起こされるのか、その改善策は何かについて、計画環境、価値観、関連意思決定の不確実性を考慮した計画プロセスと需要予測を検討した研究を実施しています。これらの成果の一部は、土木学会誌の交通需要予測特集にも報告しました。
最近の道路交通需要予測では、若者、高齢者、子育て世代のライフスタイルの変更に伴う需要の量的変化、質的変化を如何に見通すのか。これまでにない新しい課題に取り組んでいます。

4) 交通まちづくりの新しい計画手法の開発と適用

暮らしを支える交通サービスの提供は、人々の活動と意識に密着した課題であり、使い手である市民や企業、提供する交通事業者、関連施策を含めたまちづくりを推進する行政、そして、方法論や手法を提案し有用性を実証する専門家のすべてが、高い目的意識を持って取り組むことができる課題です。
まちの将来像にむけて、市民・企業、事業者、行政、並びに専門家が協働して取り組み、一歩一歩、将来像に近づくことによって、まちに住み続けたい人々、まちを守り育てたい人々、まちを自慢に思う人々の輪が広がると期待しています。この実現に向けて、まちの将来像の構築、社会実験や計画の段階的実施によるまちづくり効果の測定など、新しい協働の枠組みの中で、市民・企業、事業者、行政、専門家のそれぞれに新しい役割が求められており、実務的な課題も研究的な課題も存在します。まちづくりに重要な都市施設の立地と交通サービスの一体的整備から都心部の道路空間再配分まで、計画論や評価手法を開発し、実用的手法を普及させるべき対象は少なくありません。
交通まちづくりとは、このような認識をもとに、まちづくりに貢献する交通計画を、多様な主体の参加を促しつつ、計画立案し、実施し、施策展開し、点検・評価し、見直し・改善して、繰り返すものです。市民・企業、事業者、行政、専門家の相互理解が進み、交通まちづくりの努力と成果が高く評価されるようになると期待されます。
具体的に、持続可能な開発とそれを支える交通サービスの提供は、クルマ社会の見直しとともに、21世紀の新しい社会モデルに共通する目標であり、その地域展開に向けて、中心市街地の活性化、高齢者の暮らしを支えるまちづくり、新しいモビリティデザインに基づくまちの創造といった、地域的な議論と合意が必要な「交通まちづくりの重要課題」に取り組んでいます。

 

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