高見 淳史  /  TAKAMI, Kiyoshi

東京大学大学院 工学系研究科 都市工学専攻 准教授
博士(工学)

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都市圏スケールから地区スケールまでの「まち」の目標への貢献こそが都市交通計画の本旨であるとの認識のもと,計画立案に資する手法とその実現を支える制度の両面から,研究したり考えたりしています。特に,自動車に依存せず暮らせる都市を実現するための交通と土地利用の統合的計画に関心があります。

歴代の学生さんたちをはじめ様々な方々と一緒に,以下のようなテーマで研究を行ってきています。

 

自動車利用の少ない都市空間構造の評価と計画

人の交通行動は,提供されている交通サービスに影響されていることはもちろんですが,それ以前に都市の構造,つまり活動場所である自宅や職場や買物先などの空間的分布に大きく影響されています。であれば,土地利用を適切に規制・誘導することで自動車の利用を抑制できるのでは? …こうした可能性への関心を出発点に,土地利用パターンが交通行動に及ぼす影響を時には実証的に,時には交通行動モデルを用いて分析しています。

  • 商業施設の立地・規模のコントロールを通じた買物目的自動車利用の抑制可能性
  • 居住地周辺の物的環境の差異,または転居に伴うその変化と,活動や交通行動との関係
  • 転居者への詳細なタウン情報の提供による,活動圏域コンパクト化と自動車利用抑制の可能性

関連するテーマとして,歩いて暮らしやすい街のあり方を考えるべく,地形の起伏の大きい多摩ニュータウン初期開発地区を舞台に,そのような地域では人が持つ「行きやすさ」意識が年齢層により大きく異なることに着目して,日常的活動機会への徒歩・自転車によるアクセシビリティを評価しました。これに基づいて徒歩アクセシビリティと交通行動の関係を分析するとともに,いろいろな属性の人にとって歩いて暮らしやすい地区空間構造の姿を考察しました。

自動車利用の抑制もさることながら,その他のいろいろな政策目標の観点からも,「集約型都市構造」や「コンパクトシティ・プラス・ネットワーク」とよばれる都市構造を実現することは重要と考えられます。こうした都市構造を目指すことを見据え,現在の実態を把握したり実現方策を考える研究も行っています。

  • 多核連携型コンパクトシティの計画に位置付けられた「拠点」,その機能集積や公共交通サービスの実態
  • 地区の将来に関するリスクの経験や認知が居住地選好に与える影響 ~郊外部に対するネガティブな認知はまちなかへの居住意向を高めるか?~

 

公共の交通システム/Public Mobilityの評価と計画

自動車に依存しない都市を実現するには,利便性の高い代替的な交通サービスを提供することが重要です。需要が比較的密な地域においては,自動車と遜色のない速達性や利便性,シームレスな移動を提供する幹線系の公共交通や,都市中心部のモビリティを高める自転車共同利用システムが重要,または可能性があると考え,いくつか研究を行いました。

一方,需要が比較的疎な地域では,多様な需要を束ねて効率的に運行しうる公共交通サービスの設計が必要と考えられます。これに関連した研究も行っています。

  • 「商業施設協力型路線バス」における商業施設とバス事業者のメリットと協力関係,そうした多主体の協同による路線バスの成立可能性
  • 運行開始後の調整過程を含めた,会員制高利便性乗合タクシーサービスの料金・サービス水準の設計手法

今後は,定時定路線型と需要応答型を柔軟に組み合わせた柔軟な公共交通システム/Public Mobilityを対象に,短期的な交通行動選択,中長期的な移動スタイルや居住地への選好との関係を分析することを通じて,計画やサービス設計に資する知見を得たいと考えています。

 

「まち」の目標に貢献する都市交通計画を支える制度・政策・計画事例

交通と土地利用の統合的計画に関連する国内外の政策・計画事例と,それを可能たらしめている制度についても勉強や研究をしています。中心的な対象は,都市や都市圏のスケールで,計画の背景や問題認識から空間構造の提案に至るロジック,それを裏打ちする分析手法,提案を実現に移すしくみ,などです。さらに,立案と実施の枠組みとなる国レベルの制度・政策や,都市レベルの政策・計画が地区に与える影響にも関心を広げています。

  • 【英】イングランド地方:交通と土地利用の統合的計画に関する計画制度・政策の変遷
  • 【米】オレゴン州ポートランド都市圏:土地利用・交通戦略の立案過程とその後の展開,公共交通指向型開発促進のしくみ
  • 【英】イングランド地方・【米】オレゴン州ポートランド都市圏:自動車利用削減の観点からみた商業開発コントロール制度の比較と日本への示唆
  • 【英】イングランド地方:地方交通計画に基づく地方交通財源配分システム(第1期)の問題点と改善の方向
  • 【英】イングランド地方:アクセシビリティ・プランニングと空間計画
  • 【独】ベルリン・ブランデンブルク地域:中心地システムの再構築
  • 【仏】地球温暖化対策とイル・ド・フランス地域圏の土地利用・交通戦略
  • 【日】富山市:コンパクトシティ政策初期の到達点と課題,その後の都市・交通政策の展開

 

(記:2016年5月)